素材の違う「抜き加工」を通じて

サトウ化成:佐藤憲司 × 東北紙業社:加藤清隆

素材の違う「抜き加工」を通じて

ウレタン製の緩衝材(鑑賞材)を扱うサトウ化成の佐藤さんと、繊細かつ多様な紙の打ち抜き加工を得意とする東北紙業社の加藤さん。同じ「抜き加工」を専門とする両者の対談を行いました。扱う材料の違いから生じる差異から、同じ抜き加工を行う業者だからこそ分かるコアな部分にまで迫ります。

取材同じ抜き加工を専門とする両社ですが、類似点・相違点はありますか?

加藤単純に言うと(我々の加工は)機械による型抜きです。ここ(=サトウ化成工場内)にある機械というのはもともとは活版印刷機から改良しているものです。ハンコと同じ方法、つまり文字が出っ張っていてそこにインクがのってプレスするとインクが付くという。だから、刃の高さが活版の高さと同じ23.6㎜で標準になっています。で、業界ではだいたいトムソン抜きとかビク抜きとか呼ばれているんですけど、これは機械を製造している会社の名前(トムソン社・ビクトリア社)からきています。

佐藤ソフトが違ってハードが一緒という感じかな・・・。つまり、機械と型が一緒で主に扱っている材料が違う。それから会社的な方向性として、ただそれ(=抜き加工)だけをやっているわけじゃないというところも同じだよね。「何屋さんですか?」という質問に対して「ウレタンの緩衝材を作っています」だけじゃそこまでになってしまうから、最近はキーワードとして“ウレタン”と言うようにしていて、実際はいろいろなことをやっている。

加藤佐藤さんはいろいろなことをされてますよね。抜き以外のフッ素加工とか別事業に乗り出すとか・・・

取材それは今までの技術を活かしたものですか?

佐藤そうそう。それもあるし、世の中にはお互い知らない同士というのもたくさんいるので、そこを僕はたくさん歩き回って探すということをしている。で、加藤君もクリエイターさんと仕事するとかいろんなことをしていて、そういう部分で他の紙をメインにしている同業者さんとは違うことをしている。だから会社の方向性としてそこが似ていると思う。

加藤もともとウレタンだけ抜いている会社って少ないですよね。

佐藤そうだね、うちニッチな会社なんです(笑)
地方に行けばあるけど、東京で且つ多品種小ロットでやっているところっていうのは少なくて。80年代はそういう業者はいたるところにあって、その頃は墨田区だけでも会社が1万社近くあったの。でも今は2800社くらい。それだけ加工屋さんが減っている、つまりはなくなっているということですね。
それで、知り合いの工業デザイナーさんに「佐藤さんちよくやってるね」って言われて(笑)


▲対談場所はサトウ化成さんにて

▲向かって左東北紙業社加藤さん、向かって右サトウ化成佐藤さん

取材仕事の受け方や営業の仕方はどうですか?

佐藤うちはほとんどホームページ営業です。
検索して(ホームページを)見てもらってという。それで来てもらった人によく言われるのが「やっと探せました」という言葉。最近は地方からが多くて、僕は地方にも同じような会社があるんじゃないのって思うんだけど、ないらしくて。

加藤多分難しい案件を相談なれしているところが少ないですよね。 町工場の加工屋と言ってもいろいろあるけど、一つの考えとして、デザイナーさんが行きやすい加工屋とそうじゃない加工屋の2種類。後者はいわゆる、大ロットで、同じ加工を、綺麗に、早く、間違いなく、安価で仕上げて行く加工屋で、スケジュールが決まっていて、そのスケジュール通りにやっていく。 だから一日にたくさん作れるしその分単価は安くできるけど、デザイナーさんとかの細かい仕事はそういうスケジュールの中に入れづらい。逆にうちらみたいな加工屋は小ロットでも回しなれているから、スケジュールも入れやすく相談も受けやすい、デザイナーさんが相談しやすい加工屋という関係性。

取材新規顧客は営業で取りに行くのか、それとも相手が声をかけてくるのか、どちらが多いですか?

加藤うちは家族経営なので、営業にはなかなかいけないですね。実はホームページもなくて、ほとんど口コミです。
今、なかなか電話してくる人って少ないんですよ。だからうちに「初めてなんですけど」って電話してくる人はすごくやる気のある人です。うちは基本的には顔を合わせた仕事をやりたいので、地方からの仕事は大変です。やっぱりどうしても難しい仕事が多いので、タイムラグが生じたり、細部のニュアンスが伝わりづらかったりして大変ですよね。

佐藤うちはね、電話がかかってくるとしたら今まで加工を大阪とか三重とかにお願いしていた都内の会社。向こうのほうが(加工費用は)安いんだけど、やっぱり打ち合わせに行く電車代とかそのタイムラグを考えると、少し高くてもこっちでやるほうがいいと。そういう、地方にお願いしていたのを東京でやりたいっていうのが最近は多いかな。さっきの「やっと探せた」っていうフレーズじゃないけど(笑)サンプルをあげる段階だと、すぐ見に来られてその場で話し合えるというのは、地の利という面ですごく重要。あとやっぱり、東京にいるっていうのが一番でかい、ニーズの集積地なので。


東北紙業社さんで受けたデザイナー案件

サトウ化成さんの行うウレタン加工


出会い、繋がり、そこからの広がり

取材そもそも会社を始めたきっかけは何だったのですか?

佐藤ここは母親の実家だったのを父親が脱サラして始めた会社なんだよね。その頃周りには同業さんがたくさんいたんだけど、そういうところは大きい企業に全部ぶら下がってたから、それがトンってなくなるとみんななくなっちゃう。その反面、父親の良かったのは営業をやっていて喋りがうまかったから人が集まってきて、かつどんな仕事でも受けていたところ。ただその分だんだん人手不足になってきて、僕が入った。今は社員が1人パートさんが3人いる、あとは家族でやっている。

取材継がれた時の変化はありましたか?

佐藤僕が変わったのは、フロンティアすみだ塾という墨田区のやっている若手の後継者育成塾に出るようになった時から。父親と同じように、いろんな場所に出ていろいろ話すようになったのね。ウレタン加工の佐藤です、という紐づけを実際に商品を見せながらしていって、覚えてもらったり紹介してもらったり。

取材危機感を覚えた出来事はありますか?

佐藤リーマンショック!!!実は、リーマンの後に売り上げが急激に落ちて、その時にすみだ塾の募集があったから行ったんです。で、行った瞬間に「あ、若い人こんなにいるんだ。楽しいなこの世界。」と思って気分が開けたら全部が楽しくなって。メンタルの部分ですね。

取材繋がりやネットワークの広がりが功を奏しているということ?

佐藤そうですね。だからすみだ塾を出た後に全国の人と繋がるようにして、でその後ここ何年かは周りの区の人達と仲良くして輪を広げていっている。周りもいろいろと動く人達だからそれも勉強になるし、面白い発想にもつながる。

加藤弊社も、もともとは大手の下請け仕事が多い、いわゆるスケジュールが決まっている会社だったのですが、リーマンショック等を経験してそれをだんだん今の方針に変えたて行ったという経緯でしょうか。ここで、ひとつエピソードを。(クッションを取り出す)実はこれ、そうやってデザイナーさんと関わって繋がって作り上げたクッションさんという“緩衝材”なんです。・・・あれ?(笑)そう、その頃はまだ佐藤さんと知り合ってなかったんです。で、これが完成した後にすみだ塾で佐藤さんと知り合って。

佐藤僕も知ってたんですよ。「緩衝材を鑑賞材へ」っていうコンセプトが(自分の中で)あるんですけど、まさしくこれがそうだったんです。捨てないで再利用できる緩衝材を目指していたから、同じ区内で抜いてたんだっていう(笑)

加藤なれない素材を扱う事は結構大変なことで、色々と勉強をしました。当時、佐藤さんを知っていたら相談していたのでしょうね。やはり、お客さんやその先のお客さん、又その案件に係っている人達にとって一番良いと思える事を提案して行く事が必要だと思います。良いと思えれば、もちろん違う加工屋さんを紹介もいたします。

佐藤逆にそういうふうに紹介しあうだけでお客さんの信頼をまた得られるわけ。

取材横のつながりというのは大きいですね。

加藤そのまた“知っている”ということも強みでもあるし。

佐藤今はネットで調べられちゃうから、若い人は特に自分の足で歩いて話を聞くということが少ないと思う。
例えば、「こういう道具が欲しいんだよね」って時に、商社とか行ってカタログを見ても載ってなければない、ネットで調べてみても出てなければないってなる。でも工場を知っていると、「あそこの工場なら作れるな」というのができて。そういうのを知ってもらう機会としてはスミファってすごくいいなって思うし、(町工場を)身近に思ってもらえればなと思う。で、スミファに来てくれる人とは本当に出会いで、心に残る感想をその場で言ってもらえることもあります。以前うちに来てくれた人が、(パッケージを見て)「商品だけが“商品”じゃないんですね」って言ってくれて。自分でもそう思ってなかったっていうのもあって、心に刺さったんですよね。それを自分でも認識できたのがすごくよかった。
そういう言葉やヒントを残していってくれる人もいるから、スミファに参加するのはすごくいい。

取材毎年参加されていますが、今年のスミファへの意気込みはありますか?

佐藤楽しいスミファにしたいんだよなあ。

加藤今年だけと言うわけではないのですが、可能な限り他の企業さんの工場見学を見に行き、良い所、楽しい事を自社の工場見学に取り込んでいきたいです。

佐藤いかに自分も楽しくできるか。そして、来てくれたんみんなに楽しんでもらいたいのと、ここに来るのを楽しみにしてほしい。ここに来る目玉みたいなものを用意したいなと思っているので。


▲抜き加工それぞれの想いを語るお二人

▲それぞれの「今年のスミファについて」も話してくれました。


「抜き加工」という観点から行った対談でしたが、様々な話が聞けて大変おもしろかったです。日常生活で、モノを見る目がすこし変わりそうな、そんな対談でした。ありがとうございました。

取材担当:山口紗也夏(早稲田大学)・鈴木千尋(早稲田大学)