紙のモノづくり・紙の価値

サンコー:有薗悦克 × 東北紙業社:加藤清隆

紙のモノづくり・紙の価値

IT化が進み、駅の構内でも電子看板を多く見かけるようになったペーパーレス時代。
そんな時代をどう考え、どんな対策をとっているのかを紙を主体に仕事をされている株式会社サンコーの有薗氏と東北紙業社の加藤氏にお話を伺いました。
実はこの2社、紙を主体に仕事をされている会社の中で少し変わった会社なんです。
それは、量産型ではなく「クリエイターとともに残る商品をつくる」こと。
そんなクリエイターとの距離が近い2社。
サンコーがクリエイターとの協業のために作ったシェアオフィスco-lab墨田亀沢にお邪魔し、有薗氏と加藤氏に対談させていただきました。


仕事のやりがい

取材現在のものづくりのスタイルを始められたきっかけはなんですか?

有薗大量に印刷、生産をするという仕事ではなくて喜んでもらえる仕事、評価してもらえる仕事をしたかったんですよね。
本当に思いを込めた印刷物なら価格と納期でないと思うんです。価格と納期だけでやる仕事はともすれば「安ければいい、早ければいい」という仕事になってしまう。
もちろん、この仕事も欠かせないものです。けれど、仕事の内容として思いを込めたものではない可能性が高いのかなと思います。自分は心を込めたものを作りたいんですよね。
「早くて安い」ことが求められるならばインターネットのほうがよっぽどいいですよね。インターネットだったら何人見てもコストは変わらない。間違えたらすぐに直せばいい。
そう考えると「価格とスピード」だけで行う紙の商売はデジタル社会の中で矛盾しているのかなと。
そうではないものをとことん突き詰めていきたいなっていうのはありますね。

取材やはり、自分の仕事にとことんこだわるとやりがいを感じますよね。

加藤そうですね。自分がやっている仕事はモノが完成するための中間作業であるため、普通はお客さんの喜んでいる姿を直接、見ることはほとんどできないんです。
けれど、先日、CDジャケットを作る仕事に携わらせてもらいました。
そのアーティストさんのライブに行った時に大きな喜びを感じたんですよね。
というのもお客さんが本当に嬉しそうな顔をしていて、こんな風に「人を幸せにしている仕事のお手伝い」をすることができて嬉しかったんです。
こんなに幸せな仕事はないなと思いました。


▲対談の様子(向かって左:加藤氏・向かって右:有薗氏)

▲対談はサンコーのco-lab墨田亀沢にて開催


ペーパーレス時代だからこそできること

取材紙のポスターを最近、見かけなくなりました。このような点でもペーパーレスの時代を感じるのですが、このような時代において「紙の価値」についてはどうお考えですか?

加藤そうですね、ポスター1枚が今、LDEの電子看板が1個あればそれで代替できるし、映像も写せますよね。東京駅なんて1枚もポスターを見かけないですね。
でもそこで紙のポスター1枚でもあるとすごく目立つと思いませんか?ポスターの一番の目的は「伝える」ことでしょう?ということは紙にはそういう価値があるのではないかと思います。
みんなが電子版にするならそこで「逆」を狙ってみる。紙を使うことによって、見た人が手に取りたくなるもの、目を引くものを作れる。
紙の価値を考えるにおいて「なぜそうなのか」と考えることは重要だと思います。例えば、今、「写ルンです」が人気ですよね。
どうして流行ってるのかといったらその場で撮った写真がすぐに見れないから面白い。デジカメだとその場で見ることができるし、撮っていて緊張感がないから。
だから、「撮って写真を残す」ということに意義があるのではないんです。「写真を撮るという楽しみ」と「写真を見るという楽しみ」の2段階に面白味を感じているから写ルンですが流行っている。
自分たちの仕事も「伝える」という点においてただ単に伝えるだけじゃなくて、違う見方や価値を見出すことによって新しい道があるかもしれないなと思います。

有薗紙の価値を考えるにおいて良い例があります。
ブラジルの航空会社が乗客のfacebookを基にひとりひとりの顔や趣味を調べて、その人専用の機内誌を作ったというお話です。乗客の全員がこの機内誌を持ち帰りました。くわしくはこちら>>
乗客はこの「紙」を受け取って、作り手の手間暇を感じ、それと同時に嬉しさを感じたのではないでしょうか?
ここにデータを活用した紙媒体の価値が発揮されているなと思います。
このように、ただ一つのデータを大量に複製するのではなく、膨大なデータベースを個別に印刷できるようになってきました。そのため、「あなただけの特別なもの」を紙で作ることが可能になってきました。
このようにデータから直接印刷できるようになり、印刷業におけるデータ活用はこれからも格段に進化すると思われます。
その中で「どこに紙を使ったら、人の心に一番響くのか」を考え、またデジタル化の中で紙とデータが融合することにより紙の価値はより豊かなものになるのではないかと思っています。


サンコーの工場内も見学

東北紙業社でつくられる紙の象嵌クリップ


株式会社サンコー
「おもいをカタチに」
設立:1967年
代表取締役:有薗克明
事業内容:印刷業界における50余年の経験を通じて培ってきた、色に対するこだわり・技術力を基盤としてお客様の「こうしたい」という思いをco-labのクリエイターとの協働による、ブランディング、グラフィックデザイン・プロダクトデザインなどを通じて導きだします。
そして、印刷物、web、プロダクトなど様々メディアを使って表現します。
さらに商品の配送手配・在庫管理など、お客様にとって煩わしい作業を一括して引き受け、仕事の始まりから終わりまでを責任もって完成させ、お客様の「おもいをカタチにする」お手伝いをします。
アクセス:JR総武線・地下鉄半蔵門線「錦糸町駅」北口 徒歩9分 / 地下鉄大江戸線「都営両国駅」 徒歩15分 / JR総武線「両国駅」徒歩20分 /
地下鉄浅草線「本所吾妻橋駅」徒歩16分
企業理念:任せてよかった。ありがとう!と言われ続けるために、常に変化し、成長し続ける会社でありたい。企画を提案する会社は、印刷に対する知識が少ない。
印刷を行う会社は、企画を提案する事に対して無頓着である。
片方を専門的に請け負っている会社は多いが、両方をできる会社は実は少ない。
私たちは、製版業で培ったカラーマネジメントをベースに、お客様に「ありがとう」と言ってもらえる仕事を実現するために、進化し続けています。
だからこそ、お客様の笑顔を実現することが出来るのです。


株式会社東北紙業社
「人の繋がりを大切にし、共に成長する抜き加工会社」
設立:昭和7年6月
代表取締役:小野幸弘
アクセス:千歳工場 JR「両国駅」 徒歩8分/ 都営大江戸線「両国駅」A4出口 徒歩8分・「森下駅」A2出口 徒歩8分 / 都営新宿駅 「森下駅」A2出口 徒歩8分
企業理念:人の繋がりを大切にし、共に成長する抜き加工会社。
東北紙業社は実直にお客様や協力会社、携わるすべての人々の繋がりを大切にしています。
先代の仕事の流儀から私たちはその心を受け継ぎ、その精神こそが今もこの会社を支えています。
職人としての技術はもちろんこと、お客様と私たちにとってより良い結果が出るように、常に仕事の本質を問いかけ日々学び、仕事に励んでいます。
会社設備:<東京工場>全自動平盤打抜機(オートン)800×1100 / 手差し自動平盤打抜機(オートン)800×1100 / 平盤打抜機 L半裁判(倒し) 800×680 / 菊全判 (倒し) 940×600 / 菊半裁判(倒し) 680×460 / 菊四裁判(倒し) 470×320 / 動力付き筋押し機 / 大断ち用断裁機
<埼玉工場>全自動平盤打抜機 (オートン)730×1050 / 手差し自動平盤打抜機 (オートン) 800×1100 / 平盤打抜機 L全判 (倒し)800×1100 / 菊半裁判(倒し)680×460 /
全自動打抜機(プラテン)四六判16裁 / 大断ち用断裁機 


取材を終えて・・・

時代がうつりゆく中でも自分の仕事に対する姿勢や情熱は変わらず、その思いは増していく一方なのだなと思いました。
クリエターさんの思いを推し量り、その道の専門家としての知識を活かしながら、相手の想像を超えたものを創造することは難しいことのように思われます。
しかし、それを楽しんで相手の喜びのために働かれる姿が印象的でした。
私たちに分かりやすく、また熱い考えを教えてくださり学ぶことがたくさんありました。
ありがとうございました。

取材担当:稲元瑞恵(早稲田大学)

お話を聞いていく中で、実際に商品をみせてもらう機会がありました。
抜き加工がほどこされたかわいいデザインの商品や自分でページをアレンジできてしまう手帳など、思わず「買いたいです!」と口にだしてしまうほど魅力的な商品ばかりでした。
また、これらの商品を作るまでの過程やもの作りに対する情熱をきけて、紙商品がどうして温もりを感じられるのかわかったような気がします。
わかりやすくもの作りについて教えてくださり勉強になりました。
ありがとうございました。

取材担当:佐藤ちひろ(早稲田大学)