秋葉どんどん墨田区内の工場や会社が減っているというお話は私たちも何度も耳にしているのですが、工場などが増やすきっかけを作ろうということなんですね。
有薗そうですね。そうやって新しい人たちが入ってきて、工場の人たちと一緒にものづくりをしたら絶対面白いと思うんです。今やっている人たちが一度工場を閉じてしまったら二度とその技術は戻ってこないですよね。
例えば自動車って金属を切る人・曲げる人、プラスチックの部品を作る人がいるように、たくさんの町工場の仕事の寄せ集めでできていますよね。
でも仮に1つ金属を曲げる人がいなくなってしまったら、自動車は作れなくなってしまいます。墨田の工場は生態系みたいに繋がっているんです。
これが会社の数が一定数を下回ると一気に減ってしまうと思うんですよ。今たぶんそのぎりぎりのところまで来ていて…でも今ある会社も下請けの仕事を続けているだけではこの生態系を守れない。
だから新しいビジネスが生まれてくる仕組みを作りたいなって。そうしたらこの町全体が元気になるし、結果として印刷の仕事も勝手に生まれてくるだろうと。そんなことを考えています。
秋葉奥が深いですね…(笑)
有薗そのくらいしないと生き残っていけないの(笑)。
小倉有ちゃん(有薗さん)はね、印刷とかを超えて墨田区をどうしたい、中小企業をどうしたいみたいなところまで飛び抜けている感じがするんだよね。
その辺は本当にすごいと思うし、そういうのを引っ張ってくれる人だなって思っています。
でも僕実は有ちゃんともう七年くらい付き合っているんだけど、彼も七年前から墨田区全体をどうにかしようって思っていたわけではなかったし、
この新ものづくり拠点事業が有ちゃんをこういう風に変えたんだなってすごく思っています。
今僕も有ちゃんと同じでシェアファクトリーをやっていて、例えば刺繍機やレーザー加工機などを何時間いくらという形で貸して、それ自体で収益を増やして行きたいとは全く思ってないんですよね。
イトヘンに関わるものづくりを自分でしたい、工場でお願いしたい、いろいろ聞いてみたいって人たちが気軽にこられるような窓口を設けることによって工場に対する敷居を低くしたい。工場ってなかなか入りづらいですよね。
聞くにしても何枚からなら作れますかとかそういうことも気軽に聞けるような場所にしていきたいなって。そうすれば、何かイトヘンに関わる事は小倉メリヤスに相談すれば良いんじゃない?となっていったらうれしいです。
個人の方も会社に所属している人も、ファッションに関わる人がシェアファクトリーに出入りしていると、利用者さんが実は○○のデザイナーをやっていますとか、友達が△△の会社にいて工場を探しているので紹介しても良いですかとか、
こういう刺繍ってどこでやれば良いんですかとか…そういう話が出てきて、元々商売のつもりでやっていなかったシェアファクトリーでしたが、それならうちでこういうのをやれますよとビジネスも生まれてくる。
シェアファクトリーで儲けたいじゃなくて、そういうネットワークを一杯使って、最終的には頭を下げない営業がしたいって思っています(笑)。
これが価格競争を避ける1番の方法だと思います。日本での仕事は確かに減っているけど、でもそこで下請けのお仕事くださいって言うと絶対足下見られてしまいます。
今既にどこかにお願いしている会社があるわけですから、そこより何が良いの?となったときにまあ一番わかりやすいのは価格ですよね。
そうならないためには「うちに仕事をください」じゃなくて、「うちはこんな事やっています」と発信しなきゃいけない。
“広告”ではなく“広報”をしなきゃいけなくてその役割をnuuieeをしていきたいです。
いろんなワークショップや相談会をやっている縫製工場って日本を探してもそんなにないと思うんですよね。だから会社の広報塔の役割をnuuieeでしていきたいと考えています。
秋葉では、「出会いの場」という役割も大きいんですね。
小倉そうですね。だから「nuuiee」って名前なんですけど、縫うって“糸と逢う”って書くじゃないですか。
そこから糸と出会う場所って意味で名付けたんですよ。そういう場所にしていきたいなって思っています。
宮内うちの場合は、野菜を売っていくことと、機器の開発をして町工場さんの活性化をしていく事業ですが、ただ野菜を売るでは面白くないし、うちの工場は非常に狭いのでこれから需要が伸びてきたら足りなくなってしまうんですね。
そうなったときに町工場さんの協力が必要不可欠になりますし、今後そういった広がりを持って行きたい思っています。
それ以外には、うち自体は「研究所」という名前もついているので、これまでにできなかったことをどんどんやっていきたいです。例えば植物工場の野菜って全部葉物野菜なんです。 これは収穫までの日にちが短いのでどんどん作れるという理由があるからなんです。
根菜は作れますが、商品としてみたらきれいな形にならなかったりします。果菜は収穫までに日数も掛かるので現状コスト的にも合いません。
だからそれを解決できる研究をして販売できるようにしていきたい。本当に研究所としての役割になりますが、そういったところを意識しながら進めていきたいなと思っています。
秋葉土地代も高い東京の中で、その中でも墨田だからこそ感じられることやりがいがあれば教えてください。
宮内うちとしては、農業が0のところで始めるので、1になるというのは非常に大きいことだと思うので、そこに取り組めるということは非常にワクワクしています。農地ゼロですし野菜生産もゼロですしね(笑)。
有薗墨田区に関しては生産緑地すらないですもんね。
宮内そうですね。全くのゼロという状態の中で、0.1でもでてきたら非常に意味のあることかなと思っているので、そういったところを目指して頑張っています。
小倉僕らのニット業界って生産現場をみんな地方に移しちゃって、墨田で生産しているところはもうほぼないんですよ。
だいたい1970年代くらいから徐々に地方へ移転して、こっちでは企画や営業をやって、あとは最終工程のアイロンやプレスをする機能が残っているだけなんですよね。
現場を何が何でももう一度墨田に戻す必要があるとは思いませんが、メイドイン東京とかメイドイン墨田っていえるかって言うとなんか嘘っぽいよねって (笑)。
まぁでも広い意味で言うとメイドバイ東京なのかな…まぁちょっとこそばゆいですけど…ただ、ここで本当に一から全て作るって事にはもう戻らないと思うんです。
でも墨田が時代によって新たな形に変化して行くかもしれないけど、ここ墨田でやっているということが僕らの中でもアイデンティティであると思っています。
墨田には結構歴史のある会社が多くて、うちもじいさんが戦争の前に始めた会社で、昔はこの辺のニット屋さんはみんなステテコとか紳士肌着を作っていたそうです。
それをリヤカーに乗っけて両国橋を渡って馬喰町の問屋街に卸ろしに行っていたと聞くと、その時代からずっと繋がっているんだ、じゃあそれを絶対絶やしちゃいけないなって強く思う。
僕歴史とかたすきとか受け継ぐんだっていうのが大好きなんです(笑)。
だからそう考えたときに墨田だからこそ続けていきたいと感じますね。
秋葉インタビューありがとうございました!例えば鋳物工場の人が同じ墨田区内の塗装会社の人に仕事を依頼して一つの製品ができあがるというように、事業での会社間のつながりはこれまでもあったと思いますが、お話を伺っていて、モノづくり拠点事業によって、事業間のみならず工場の人とクリエイターの人の出会いが生まれていき、墨田区全体が活性化し、つながっていくのだなと感じました。
有薗そうですね…。うちのメンバーも全員nuuiee行かせてもらったよね。そういう場所ができて人が行き来するようになって、そこから新しいものが生まれていくようになるだろうし、僕らも税金を使わせていただいている責任もあるので、そういう風にしていかないといけないなと思います。
小倉だからこううまいこと墨田区もきっと考えていて、金属・ニット・印刷・農業・革というように、墨田の代表的な産業をピックアップした拠点を作っているよね。そうしてそこに外からクリエイターの方や同じ工場関係の人とかも区外からきてくれるわけじゃないですか。うちも結構同じように区外からのお客さんも結構多いです。だから今言ったようなモノづくり拠点同士の連携っていうのも確かにあるけど、一つ一つの区を代表する産業の拠点に外部から来た人がたくさん集まってくれて、それが区外や地方や海外の人から見たら「おぉ墨田盛り上がってるじゃん」って思ってもらえるのを目指すのが大事だと思うんだよね。
宮内そうですね。僕の視点的には皆さんのように墨田の変遷を見てきたわけではないので“モノづくりのまち墨田”というところから入っているんです。これまで研究者の集団だと、研究者同士だけで集まってしまうというのがよくありましたが、研究者と町工場の人を繋げることで新たな事ができるんじゃないかというところにとても期待しています。町工場の方々は、お聞きしてみると結構いろんなアイディアを持っていらっしゃいます。元々下請けでお仕事をされる方が多いと思いますが、そういった所で培ったノウハウは、一般の人や研究者とは違う視点で洗練されて築き上げられています。そういった町工場の方の視点を取り入れてものづくりをしていければなと思っています。