企業対談 vol.03「工場を、もっとみんなの拠点に」
作りたいけど、作れない。という人が、世の中にはたくさんいます。
機械がない、ノウハウがない、そんな人たちをサポートする、すみだの工場があります。
革のクリエイターが集まる場所、Lather Lab MEWの片野さん。
車椅子のことならおまかせ、さいとう工房の高橋さん。
ものづくりの実験工房、浜野製作所・Garage Sumidaの清水さん。
日々たくさんのクリエイターやアイデアを受け入れている、すみだの3つの工場。そこで働く3人に、想いを伺いました。
墨田区にお仕事している間に思うことは?
Lather Lab MEW:片野問屋さんや職人さんがまとまっているので仕事の効率が非常に速いと感じます。鞄に特化してしまうのですけど、材料関係や職人さんが近くに集約しているのでやりやすいですね。
さいとう工房:高橋さいとう工房がある場所はスカイツリーから歩ける距離です。仕事の合間にスカイツリーを見ると、癒されますね。スカイツリーが近くにあるおかげで、日本からのお客さんだけではなく、海外からのお客さんもうちに来てくれます。また、墨田区は昔からモノづくりが盛んな地域なので、ものの調達が非常にしやすいですね。
浜野製作所・Garage Sumida:清水そうですね。私も同じ感覚です。ただ浜野製作所はスカイツリーからは少し離れていますが……。墨田区自体はモノづくりの会社が多い町です。東京都全体としてみると、製作の依頼をされているのは企業だけでなく、研究機関や大学からの依頼も結構多いのが特徴です。
新ものづくり拠点を始めたきっかけを教えてください
片野20年前くらいに遡るのですが、皮革産業の拠点が海外に移ったということが一つ大きなきっかけです。
海外に移った結果、国内の職人さんがだんだんいなくなり、残った職人さんも高齢化してきました。
一方で、それを引き継ぐ後継者が育っていなかったということに危機感を感じたことがこの事業を始めたひとつのきっかけです。
ここで仕事を途絶えさせないということと、新たに職人になる人を育てていきたいと思い、新ものづくり拠点を始めました。
高橋障害者に移動するための車いすを提供するよりも、障害者が働けるような車いすを提供したいと思ったからです。
なぜかというと、障害者は元気がなくなると、内に閉じこもってしまい、社会との接点がなくなります。やはり、外に出て、働いて、みんなと接触して元気になってもらいたいです。
だから、障害者が元気になれるような車いすを作りたいと思ったのです。
清水東京は人件費が高いし、土地代も高いし、多分一人暮らしをする人は分かると思いますが家賃も高いですよね。条件は会社も同じなので、
そんなところでものを作るとどうしてもコストが高くなってしまいます。そのかわり、地方と違って色んな情報が集まってきます。
これをどう上手く活用してものづくりを続けていくのかを考えたら、ベンチャー事業の支援を始めとした「新たなものづくりサービス」に辿り着いたのです。
新事業は具体的に何をされていますか?
片野墨田区の代表的な産業のひとつである革を通して、モノづくりをテーマにイベントやワークショップを開催しています。またクリエイターの交流、職人の育成にも取り組んでいます。具体的には職人を目指す方に工場を一部貸し出ししています。地方ではなく東京に工場を持っているという強みを活かして、他とは違う特化したことを実現したいと思っています。
高橋事業はまだ踏み出したばかりです。いろんな人が集まり、知恵を絞って、就労支援型の車いすを作っているところです。「障害、性別、年齢関係なく、社会と関わりを持って、生きがいを感じられる」そういった潮流を生み出したい、そういう場所としたいと思っています。また作るだけではなく、中学生や大学生、社会人がここに来て、車いすについて勉強しながら交流できる場としても活用しています。
清水ガレージスミダは一言でいうと、モノづくりの実験工房みたいなところです。浜野製作所は金属加工をやっていますが、ガレージスミダは金属加工をするようなものは一切なく、逆にレザー加工機や3Dプリンターなどの、工場の機械と違って一般の人がアクセスできるような機材が揃っている場所です。浜野製作所でカバーできないようなモノづくりにも対応できるということがガレージスミダのメリットだと思います。「こういうものを作りたい」というアイデアを持っているけれど、作ったことがない人たちがモノづくりを進められるようにガレージスミダでは、スタートアップの支援や試作の支援をやっています。
運営してみて一番大変だと感じるところを教えてください。
片野上手くコミュニケーションをとって、「思ったことを正確に相手に伝える」ということに本当に苦労しています。例えばワークショップをするときに、材料を誰がどこに動かしたのか分からなくなることがしょっちゅうあります。人数が多いほど、余計に混乱しやすいですね。そこで、ルールを見直し、スケジュールを組み立てる大切さを実感しました。これからはさらに多くの人が来るので、改善策も日々考えています。
高橋冗談を言うと、墨田区からの依頼が多くなりました。(笑)自分たちが宣伝しなくても、区の人たちが宣伝してくれるのはとても嬉しいのですが、逆にいろんな方が来るので対応に工夫が必要になりました。
運営してよかったと実感するときはどんなときですか?
片野Mewを始めてから、全国のお客様からいろんな問い合わせがあって、異業種からの相談も増えました。Mewを始めることで、他の企業との接点が増えました。例えば、作家さんが自分で作ったものをさらに大きくしたいといったときには、私たちに相談が来るようになりました。そういうバックアップを通して、今まで知らなかったことをたくさん学ぶことが出来ました。
高橋ここにいろんな人が集まってきます。大学の先生、ロボットの研究をしている人など本当にいろんな職種の方が来てくれます。多様性に富んだ人たちが集まってくれるおかげで、事業に向けてのアイデアが出しやすいし、新しいつながりもできます。
清水私も同じ感覚です。モノは作れるけど、アイデアが多い訳ではないです。ガレージスミダを始めることで、うちにはなかった発想をいろんな方が持って来てくれます。例えば、「風力発電ができるものを作りたい」という話が来てからは、一緒に勉強し、たくさんのことを知りました。ガレージスミダでも情報をどんどん集めて、どんどん面白いものを作って、ベンチャーと一緒に成長していきたいと思っています。
これからの展望について、どうお考えですか?
片野今まではずっと受注生産のように決められた仕事をこなしてきました。これからは、これと同時にオリジナルの商品も作っていきたいです。蒔いた種をゆっくり育てていく、関わった人たちと長く付き合っていきたいです。
高橋僕らが目指しているのは、高齢者であっても障害者であっても、それを使って働けるようなものを作りたいです。また、機械だけではなく障害者に働ける仕組みを作りたいです。そう、障害者の能力を生かせる仕組みです。障害者と言っても、例えば接客に向いている障害者も大勢いる、そういう人たちが働けたらいいなと思います。
清水依頼を受けてモノを作るだけではなく、モノづくりの上流である「設計、開発、企画」にも携わっていきたいです。誰にも作れないような、今までになかったモノをガレージスミダで作っていきたいです。
取材担当者より一言
インタビューを通して、新ものづくり拠点を運営することでもともと想像していなかった人や会社との接点が増え、幅が広くなるのが3社の共通点だと思います。また、3社の展望を聞いたことで、自分の視野が広がり、本当に勉強になりました。ありがとうございました。
取材担当:李 暁詩(早稲田大学)
取材担当者より一言
一見して見れば、共通点のないような企業でも、取材を通して、モノづくりに対する姿勢や想いに三社の共通点を見つけ出すことが出来ました。貴重なご経験、本当にありがとうございました。
取材担当:安藤皓太(早稲田大学)
記事:李 暁詩(早稲田大学)
写真:杉浦友紀(早稲田大学)
企業担当:中野友寛(早稲田大学)
取材:杉浦友紀(早稲田大学)・李 暁詩(早稲田大学)・安藤皓太(早稲田大学)