墨田でつづける事業・はじめる事業

アグリガレージ研究所:宮内陽介 × 岩澤硝子:岩澤宏太

墨田でつづける事業・はじめる事業

全く違う業種のお二人。お互いの印象は?

笠井まずは、お互い面識ございますか?

岩澤ちゃんとお話しするのは初めてですよね?

宮内そうですね。(以前)うちの別のメンバーがお世話になったと思うんですけど、直接お会いするのは初めてですね。

笠井ありがとうございます。最初の質問が「お互いの取り組みについてどう思っているか」という内容だったんですけど・・・

岩澤なかなかこういう場がないと知らないですよね、お互いのことって。

宮内そうですね。お互いまずは紹介から始めたほうがいいですよね?

笠井そうですね(笑)お願いします。


アグリガレージの宮内さん

岩澤硝子の岩澤さん

宮内うちの場合、何をやっているのかわからないと思うので、かいつまんで説明したいと思います。
リバネスは教育からスタートした会社で、私も研究者でずっと研究をしていて、私と同じようなメンバーが50~60人います。そのなかで植物の研究をしているメンバーがいて、植物に特化した研究所を作ろうということでアグリカレージ研究所を立ち上げました。
私たちが墨田区で行っている事業としては、空き工場に植物工場を開設して、部屋の中で植物を育てて収穫するというシステムを入れ、大手の企業などが植物工場を開設しても上手くいかなかったという課題を解決するために、ただ単に野菜を作るだけではなく、加工を組み合わせ上手く付加価値化できないかというのをやっています。基本は植物工場を軸に、空いているスペースの有効活用や取れたものを地域の方々に有効に使っていただくというのが、墨田でメインでやっていることです。

岩澤墨田には何年くらいいらっしゃるんですか?

宮内常に人がいるわけではなく、どちらかというと週に1,2回メンテナンスであったり研究であったりを3名ぐらいで運営しています。

柾(実行委員)実際に加工は墨田でやられているのですか?

宮内そうですね。部屋の中で種をまいてそれを収穫して、その収穫したものを粉末にするまでの工程を全て工場の中で行っています。

岩澤・・・知らないことばっかりですね。

笠井では続いて岩澤さん、お願いします。

岩澤うちの会社は見ていただいてわかるようにガラスを作ってまして、透明なものから色とりどりのものまで作っているんですけど、もとは大正時代、江東区の猿江の方で始まった会社で、戦後、兄弟が集まって今この地で創業しました。
もともとは中ねじのタイプの醤油さしであったり、車とかスクーターのヘッドライトのレンズを作っている会社だったんですけど、いろいろ時代を経るごとに人数も変わってきて、そのあと花瓶や灰皿をメインに作っていたんですね。今はそれに加えて電球のパーツであったり、ガラスの表札であったり、食器から何まで幅広くやっている会社ですね。会社紹介というか特色として、ふーっと息を吹く吹きガラスという製法は一切やっていないというのが他との大きな違いですね。プレスといって上から押したり、へらで伸ばしたりなどといった製法でやっています。基本的には業務用といわれるものですとか、卸とかが多いんですけど、どこかで皆さん必ず見たことがあると思うんですよね。ただ、うちの名前で発信しているものはほぼないので、皆さん知らないと思うんですけど。
まあ基本はガラス製品を作っていて、頼まれたものは何でもやるって会社ですね(笑)


アグリガレージの宮内さんと岩澤硝子の岩澤さん

▲対談場所は岩澤硝子にて。工場も見せていただきました


宮内さんは墨田で事業を始めたそうですが、多くの工業地域がある中、どうして墨田区を選んだのですか?

宮内会社の代表から、面白い人がいると浜野製作所の浜野さんを紹介され、お友達になったことがきっかけです。
浜野さんと墨田区には様々な町工場があるという話をしたことが転じて、興味を持ち、墨田区の町工場さんを調査する機会を頂きました。
調査を進めていくなかで、墨田には日用品を作っている工場が多くあり、それらの加工技術が色々なものへ利用できるのではないかと思いました。どうにかして活用できないだろうかと考えているときに、私の会社ではベンチャー企業をサポートするという事業をやっていたんですよ。ものづくりのベンチャーさんはやる気や熱意にあふれているのですが、アイデアはあってもそれを実現する技術を持っていないんですよね。そこで、正確なものを作る技術を有する墨田の町工場さんとベンチャーさんを繋げれば、活性化のモデルが作れるのではないかと考えたんです。そこからガレージ墨田というベンチャー企業を支援する拠点を作って、町工場さんとともにものづくりを進めていったのが墨田区との関わりの原点です。
ガレージ墨田でやっていくうちに、墨田区さんが新たな事業を立ち上げる企業への創業支援制度を設けていることを知り、墨田で既存の町工場さんと連携しながら自分たちの事業と組み合わせて、新しいことができるのではという思いが膨らんでいきました。そこで墨田区さんからの支援を受けて、昨年、アグリガレージを始めました。

墨田区の調査を行い、実際に事業を始めて感じた業地域としての墨田区の雰囲気や特徴はありますか?

宮内現在では板橋区や大田区さんの町工場さんともお仕事をさせていただいております。他の地域の方々と仕事をしてみると、やはり地区ごとの雰囲気感があるなと感じております。例えば大田区さんですと、大きなものを作っている工場が多いなと感じましたね。

実行委員:柾そうですね。実は大田区は戦争に直接使われるもの、例えば大砲や銃のようなものを作っていた工場が多かったんです。そのような歴史的経緯もあって、固いものを作る工場が多いそうです。
一方、墨田には宮内さんがおっしゃっていたように日用品をはじめとして、様々な産業があるんです。その理由が、墨田の工場は戦時中に兵隊の身の回りのものを作っていたからだとされています。石鹸だとかお弁当箱といった、兵隊さんが生活をするにあたって必要な日用品を作っていた名残で、墨田には様々な種類の産業が残っており、墨田の特徴とされているそうです。

花山そういう歴史的背景が工業地域の特色に色濃く残っているんですね。

岩澤柾さんお詳しいですね!

実行委員:柾色々と勉強してきたので!!

岩澤墨田について自分も話したほうがいいですかね。

花山ぜひお願いします。

岩澤墨田区は後継者の方や新規に事業を始める方々を応援する環境がしっかりと整っているということは感じていますね。
 
私は当時は知らなかったのですが、「すみだ塾」 という後継者を育てるコミュニティがあるそうで、皆さんはそこで仲間を作ったりしているようなので、そういった制度があることはいいことだと思いますよね。墨田区が後継者を育てる制度や補助金で環境を整えてくれることは、皆さんありがたいんじゃないでしょうか。
私の会社に関して言えば、もともと地場産業なんで、近くに色々な工場があるんです。今日もそうなんですけど、使っている金型が摩耗して欠けちゃったんですよ。明日必要なものなので困るんですが、型屋さんが近いのですぐに来てもらって明日までに届けて下さいと頼んでおけば、なおしてもらうということが可能なんですよ。それが墨田の利点であると思いますね。

これからについての構想はありますか?

宮内去年(事業を)スタートして、最初は植物工場とかのユニットとかはほかの町工場さんの技術を研究に取り入れてはなかったのですが、
今年は浜野製作所さんに植物工場の監督をしてもらったので、それらの町工場モデルを作っていって広げていきたいというのが一つあって、そういった取り組みを町工場さんと協力してやっていけたらと思っていますね。
後継者が不足していて工場が空いているのは非常に勿体ないことで、放っておくとマンションになってしまうので、空き工場を再利用させて頂いてます。ものづくりの町、墨田にこれまでとは違う新たな「野菜作りというものづくり」を入れていきたいという思いでこれから活動していければと考えています。

岩澤暗い話になるんですけど、ガラス会社は何百社とあったのが、今では何社しか残ってないんですよね。ガラス業界とはそういうものなんですけど、そうなる理由が人件費や燃料費といった固定費にあるんです。窯に一度火をつけると15年ぐらい消せないんですよ。そうすると火事にならないように、昼夜休日関係なく見張りが必要となるんです。稼働していないときも燃料は消費し続けるから燃料代も馬鹿にならないんですね。こういった固定費が多くかかるため、仕事が減ってくると、潰れてしまう産業なんです。
なのでやはり、「残ってゆく」ということが基本なんですよね。事業を広げてゆくというよりは、細々とでも続けてゆくということが大事な産業なんです。
しかし、続けてゆくと言っても同じことをやっているだけでは潰れてしまうので、どうやったら続けられるのかを常に考えながら経営していますね。
うちはすみだモダンを取らせて頂いたことで発信力がつきました。今はそこを生かしながら、続けてゆくために、ガラス産業を残してゆくために、やっております。

さて、ここまでお話してきてお互いの事業についてある程度理解いただけたと思いますが、改めてお互いの印象について伺えますか?

宮内扱っている事業の大きさがまず違いますよね(笑)。うちはモノ自体が少なくてもできるので、そのスケールの違いを感じますね。

岩澤うちの場合で言うと、ガラスってこれがなくなったら全く生活できないって言われれば、たぶんできるんですよね。どちらかというとぜいたく品の部類に入っていると思うので。それで食とかの分野ってなければ困る分野じゃないですか。だから、そちらの分野っていうのは色々、だからこそ特化していくんだと思うんですけど、もっと突き詰めなきゃいけないので、うちなんかは大雑把だなって思うんですけど(笑)でもやっぱり難しいんだなと感じましたね。

宮内そうですね。やっぱり生き物は難しいですね。


▲岩澤硝子さんの工場釜

▲詳しい説明もしていただきました


全く違う業種でなおかつお互いほぼ面識のない状態からスタートしましたが、時間が経つにつれてその違う業種の中でも共通点が見つかり、聞いている私たちにとっても非常に有意義な対談になりました。今回の対談のように、自分の知らないところで新たな発見があるかもしれないので、今後も異業種同士の対談を続けていければと思います。

取材担当:花山拓馬(早稲田大学)

ガラスがそんなにも制約とコストのかかるものだと知らなかったので驚きました。私たちが普段使っている物の小さな部品ひとつひとつが、誰かの時間と手間を経ているものであると改めて認識する良い機会だったと思います。明るい話だけでなく、暗い話や問題点にも言及して下さったので、対談がより深いものになったと感じております。
我々はゼミの活動で、町工場の方のお話を伺うことが多いのですが、アグリガレージさんのような、後継者ではなく新規で、ものづくりに参入してきた方のお話を聞くことがなかったので新鮮でした。宮内さんは事業内容的にも、職人というより研究者といった印象を受けました。従来の職人とは異なる宮内さんが持つ墨田・ものづくりへの思いを聞くことができたので良かったです。今後、町工場さんとお話する際の参考となりました。

取材担当:笠井祐太(早稲田大学)